仄かに甘く、そして切なく

ふと、懐かしい香りに足が止まる。甘く爽やかな、柔らかい香り。昼下がりの賑やかさの中、初夏の風が運んできたその香りに自然と視線が誘われる。瑞々しい緑に、沢山のオレンジ色の果実。白い花弁が所々に顔を覗かせ、穏やかな光に体を揺らせている。食べ頃まではもう暫くだろうか。幼かった頃、屋敷に成っていた実を、我…