明日も天気になーあれ!

主にQuestNotesやらTRPGやらをやっている人

如何にして彼は冒険者を名乗るようになったか

白く鋭い風が、襤褸きれに包まれた体を斬る。
切った額から流れる紅が、ぽたり、ぽたりと雪へと落ちてゆく。

――クソッたれが。

まだ幼く柔らかい手で、拾った角材を握りしめ。ずり落ちそうになるソレを背負いなおす。
そして視界を滲ませる紅を乱暴に拭い、内心で毒づいた。



身のこなしには自信が有った。
大人だろうと、並大抵のヤツなら相手にならない。
衛兵たちに追われた事だって数えきれない。
けれどその度に何とか、上手くやって来た。やって来れたのだ。
だから、だから今回も――自分なら行けると、そう踏んだ。



半ば引きずるようにして足を進める。
血を流し過ぎたのか。視界がグラついて仕方がない。

――気ぃ抜いたら、足元から崩れちまいそうだな。こりゃあ。

声に出して、唇の端を釣り上げる。
勿論、冗談だ。そうなってやる気なんて、欠片も無かった。



やっとの思いで、見えて来た城壁。
交易都市リーン。自分達が生きる街。
その正門の前には、この雪の中だというのに、幾つもの馬車が連なっている。
所々に焚かれた炎の周りには、愚痴を言いつつも笑い合う商人たちの姿。
馬鹿でかい正門はその明かりに照らされ、雪の中でも輝いて見えた。
……最も、自分達が生きるのはそんな街の隅も隅。見向きもされない、小汚い路地裏の端っこなのだが。


明かりへは向かわず、寧ろ遠ざかるようにして進む。
自分達が、「抜け穴」と呼んでいたそこ。
小さな子供なら通れるような、少しだけ城壁が崩れた一角。
外に出る必要が有る時は、いつも使っていた場所。
ねぐらにしていた廃墟から程近く。そこから、夕闇色の雪道をゆく。
上手く行った。帰って来れた。これで何とかなる。皆で、冬を越せる……なんて、高揚した気分で。






「んぶ……ッ!? ごっふぁ!!?」
唐突な痛みと、叩き付けられたような衝撃に目を覚ます。
続いてガラスが割れるような音に、響く大声。
引っ被った液体を振り払いつつ、慌てて状況を確認し……
次の瞬間、思い切り脱力した。

ドン、とテーブルを鳴らし何事かを主張するオレンジ頭に、厨房の向こうから揶揄いの声を掛ける緑色。
目つきの悪い方の黒いのがそれを煽り、デカい鎧が若干ずれた事を呟く。
目が死んでる方の黒いのは、酔った金髪娘に絡まれ挙動不審。

何時もの連中が、何時もの様にバカ騒ぎをしていて。他の連中も、思い思いに煽ったり、乗っかったり、突っかかったりして楽しんでいる。

…詰まる所、何てことは無い。何時もの酒場で寝こけていて、夢を見ていたのだと。そう理解して、ため息をつく。

ついでに、叩き起こしてくれたのはオレンジ頭だろうとアタリをつける。どうせその無駄に大きな身振り手振りで、自分の椅子でも倒してくれたのだろうと。

一息置いて、ニヤリと笑い。大げさなくらいに声を張り上げ、そのバカ騒ぎのただ中へと飛び込んだ。






冬は、どうしても食物が少なくなる。
川は凍り、魚は取れず。木の実は勿論、草木も冬は殆ど食える物が無い。
その年は長く冬が続いて、少ない蓄えはとうに底を着き。
そうして、盗みをやり過ぎた結果。
目を付けられて、潰された。きっと、そういう事なのだろう。
帰ったねぐらは荒らされていて。そこにはもう、誰も居なかった。


必死でツテに頭を下げて回って。情報をかき集めても、大したことは解らなくて。
「どうすることもできない」って、諦めるしか無くて。
最後は失意のまま、一度は門前払いされた冒険者の店――路地裏に有る、羊の尻尾亭とはまた違う店――に乗り込み。
ずっと背負っていたソレ。ゴブリンの首3つと、駄目になったナイフを机に叩き付け。
そうして強引に冒険者の立場と、報酬をもぎ取った。




帰り道。酒臭い息を吐きつつ、白さと鋭さの残る空気の中を歩く。
ふと、脳裏に浮かぶ考え。
もし――もしも、アイツらが生きているとしたら。
今、どうして居るんだろうか。
そんな言葉を溢しかけ――
結局、口に出すことは無く。

暫しの間だけ、足を止め。額に残った傷痕に触れる。

軽く肩をすくめると。きつく、きつくバンダナを結び直して。
溜め息を一つ。そして、口の端を釣り上げ。

そうして、月明かりの下を歩くのだった。



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「アイツどうしてるかな」「足元から崩れ落ちるようだ」「どうすることもできない」という3つの台詞を盛り込んで、レーゲンの冬のお話を創りましょう。
https://shindanmaker.com/616070

寝たらいかんので寝ないように何かしよう→久々にSSでも書くか
思い立ったので書いて見た。…書いてる途中で寝落ちたけど。

このSSはフィクションであり、実際に存在するPCとは(ry
名前は出して無いから……!けど不味かったら直ぐに言ってね!修正するよ!!


レーゲンの過去話。カッコ悪いけどカッコいい。キャラとしては、そんなポジを目指してたりする。
出来るだけ情景が浮かぶように。過去と今を対比させて、行動なんかも根っこは同じまま少し変わって……そんな感じで書けてたら良いなーとか思うのであった。