明日も天気になーあれ!

主にQuestNotesやらTRPGやらをやっている人

仄かに甘く、そして切なく

ふと、懐かしい香りに足が止まる。

甘く爽やかな、柔らかい香り。昼下がりの賑やかさの中、初夏の風が運んできたその香りに自然と視線が誘われる。

瑞々しい緑に、沢山のオレンジ色の果実。白い花弁が所々に顔を覗かせ、穏やかな光に体を揺らせている。

食べ頃まではもう暫くだろうか。幼かった頃、屋敷に成っていた実を、我慢できずこっそり食べた記憶が蘇る。

確か、随分と酸っぱい思いをしたのだったか。

おまけに家の者に見つかり、随分と叱られた物だった。淑女が樹に登った挙句、やる事がつまみ食いだなんて!!

口の中に酸味強めな甘酸っぱい記憶が広がり、耳には懐かしい声が遥かな過去から聞こえてくる。

……ふと、我に返る。誰にも見られては居なかっただろうか。慌てて周囲を見回し、誰も知り合いが居ない事を確認する。

傍から見れば、随分と妙な顔をして居た事だろう。だが見られては居ないのでセーフだ。見られて居たら乙女的にアウトだったが。

軽く頭を振ると、止まった足を再度動かす。気持ち歩調を速め、大通りの市場へと向かう。買わねばならない物は沢山あるのだ。

リストを頭の中で確認しつつ、口からは小さな微笑みが零れた。




硬く温かな手のひらが、ゆっくりと幼い額を撫でる。

行かないでと、縋りつきそうな手を抑える事に。零れそうになる涙を堪える事に、あの時の私は必死だった。

だから最後の別れの時、どんな表情をしていたのか。私は知らない。

ようやっと顔を上げた時には、大きかった筈のその背中はあんなにも遠くて。

初夏の日差しの中に消えていくのを、見送る事がやっとだった。

吹き抜けた風が、仄かに切ない香りを運ぶ。

緑とオレンジ色の中に、小さな白が揺れていた。




大きな紙袋を抱え、買い残しが無かったか確かめる。後は帰るだけ、となった時、ふとそれが目に留まった。

露店にずらりとアクセサリーが並べられ、色とりどりの輝きを放っている。微かな魔力を感じるのは、それが文字通りお守りでもあるからだろうか。

その横に立てかけられたコルクボードには値札の他、アクセサリー自作教室開催中と大きく書かれたチラシが貼り付けられている。

「……お姉さん、興味あるの?良かったらチラシをどーぞ。結構人気あるんだよね。戦地に赴くあの人にーってヤツ?こんな時代だからねー」

詳しく内容を読んでいると、徒弟であろう店番の少年にそんな言葉と共に一枚手渡される。慌てて否定しようとし…結局言葉を飲み込んだ。

早口にお礼を言い、そのまま逃げるように歩き出す。…チラシは、後でゆっくり読むことにする。

傾いた陽の中、あの人にはどんな物が似合うだろうか、なんて考えながら歩く。

贈った所で、彼は身に付けてくれるだろうか。きっと眉間にしわを寄せたような何時もの顔で、それでも付けてくれるんだろう。

そんな様子が自然と脳裏に浮かぶ。何だかおかしくて、くすくすと笑ってしまう。

頬を撫でる風は、どこか甘く切ない香りがした。



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いつか書きかけにしてたデータが出て来たので完成させてみた。

酒場でキャラのテーマ曲について雑談していた際、ふと思い出したのでそれも盛り込んで。因みに某起動戦士種の曲をイメージしてたりする。暁で車な。歌詞使っては居ないしタイトルそのままでもないからセーフ!

140字とかじゃなくて、ちゃんと書くのって難しいなやっぱ…あれこれ詰め込みたい事はあったけど、上手く書ききれなかった感。若干とっ散らかってるし。

そして相変わらず誰かさんについてはぼかして行くスタイル。やっぱ自分で書くより相手のロールを楽しみたいというか(何